まだ寒さが体を突き刺すように感じる、とある晩冬の朝、
私はいつものように、海岸を散歩していた。
別にこれといった理由は無い。
ただの習慣なのだ。
最近は散歩しながら、浜辺に落ちている貝一つにさえ、勝手な想像を膨らませ、
考えてしまう毎日である。 10年前のあの日から・・・。
10年前の、ある夏が終わりに近づいた日、いつものように魚(※1)を採り、
食していた。 割合、海に近い洞穴に住んでいるので、甲羅の重さで疲れる事は無い。
まあ甲羅をしょっているのはポケモンの種族の一つとして当たり前なのだが・・・。
海から上がり、魚を食べようとしたその時、聞こえもしないはずの、
魚の声が聞こえてしまったのである。
「なぜ私達でないと、欲求が満たされないのか・・・。」
私は、空耳だ、空耳に違いない・・・、と自分に言い聞かせた。
しかしその声は何度も聞こえてくる・・・。
私は咄嗟(とっさ)に頭を振り、魚を海へ放り投げた。
食料を投げ捨ててしまった訳だが、魚しか食べられない訳ではない、貝だって食べられる。
そう思った私は、少し離れた磯辺で貝(※1)を探し、摘み取ろうとすると、また聞こえた・・・、
「なぜ私達でないと、欲求が満たされないのか・・・。」
何が何だか分からなくなった・・・。 貝を元に戻し、家に戻った。
家に帰って一息ついたら、空腹感がどっと出てきた・・・。 今日は何も食べていなかった・・・。
しかし、また動物系の食料を食べようとしたら、またあの声が聞こえるに違いない・・・。
そんな苦悩のせいで、それらを食べれる勇気が途端に失われた・・・。
仕方なく、洞穴のすぐ外に生えているオレンの実を食べる事にした。
普段は疲労薬として食べ、肉食の私にとっては、味は美味しく感じられないのだが、
さすがにあまりの空腹のせいか、かすかに美味に感じた・・・。
そしてその次の日も、また次の日も、例の声が聞こえてしまう・・・。
その度、オレンの実、時には別の木の実を食べていく日々が続き、今に至る。
さすがに10年間も木の実を食べ続けているのだから、もう魚肉を食べたい、
という欲求は起こらない。 食べようとしたら、例の声が聞こえてしまうのだから・・・。
そんな回想を思い浮かべながら、磯辺の水溜りに映る私、アバゴーラの顔を眺めた。
毎日の散歩の終点、というか折り返し地点である、とある海岸洞窟の入り口で引き返し、
私は家に帰ろうと、復路を歩いた。
海岸を歩いていたその時、遠くに、行きの時には無かった楕円形の、石らしき物が見えた。
近づいて見てみると、それはポケモンの卵だった。
卵を見るのは初めてだったので、つい反射で卵をつついた・・・、
すると予告無く、卵がかえってしまった!
卵の頂点に空いた穴から顔を覗かせたのは、私の以前の姿、プロトーガだった・・・。
※1:魚、貝というのは、他のポケモンの事を指していません。
本当にただの「魚」、「貝」です。
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